(この記事は2013年5月1日時点の情報です)
井上健 先生(脳神経内科)
脳神経内科ではどんな病気を扱うの?/薬を飲んで頭痛が悪化?!「薬物乱用頭痛」
いのうえ内科脳神経クリニック
【住所】広島市中区舟入川口町5-7
【TEL】 082-233-0747
頭痛・めまい・しびれといった神経内科の専門診療だけでなく、生活習慣病や風邪などの日常的な疾患も扱い、地域の健康をサポートしている
私たちの街にはいろいろな科の医院やクリニックがありますが、症状によってはどの科を受診すべきか悩むこともしばしば。たとえば「(脳)神経内科」は、心療内科や脳神経外科と呼び方が似ているので混同することも。
そこで今回のレポートは、「いのうえ内科脳神経クリニック」の院長、井上健先生に、(脳)神経内科が扱う病気について伺いました。
また、頭痛外来にも積極的に取り組んでおられる井上先生には、近年問題視されている「薬物乱用頭痛」についてもお話を聞かせて頂き、レポート後半で詳しく説明しています。これは、頭痛を抑えるために飲んだ薬が頭痛を悪化させてしまうというもので、頭痛薬が手放せないという方には是非とも読んで頂きたい内容です。
神経内科とはどのような科ですか?
「神経内科」と聞いても、ピンと来ない方がいると思います。「心療内科」と区別がつきにくい方も多いのではないでしょうか?
神経内科は、脳・神経・筋肉などにわたる広範囲の障害を主体に診る科で、統合失調症やうつ病や人格障害など脳の障害に限局した限られた疾患を主体に診る精神科とは異なります。当院のように「脳神経内科」と標榜している医院がありますが、あえて「脳」をつけているのは精神科で神経内科を標榜される医院ではないからです。
神経内科と脳神経内科は同じだと考えてもらっていいのですが、では「脳神経外科」とは何が違うの?となりますよね。字も似ていますし、同じ脳を診る科なので混同されがちですが、「脳神経外科」は主に手術治療が必要な脳の障害に限局した疾患を診る科で、脳神経内科が見る疾患と重なりますが手術をするという点で異なります。
また同様に、運動機能障害が起こる神経や筋肉の疾患で、手術治療が必要なものは整形外科が扱いますが、手術を行わない疾患は(脳)神経内科でも診断・治療を行う場合があります。
神経内科はどんな患者を診るのですか?
頭痛、めまい、しびれ、振るえ、体が思うように動かない、痙攣(けいれん)、麻痺、意識障害、物忘れ、てんかん発作、立ちくらみ、五感の障害など、これら様々な症状から、診断・治療を行っていきます。
神経内科の対象疾患は極めて多彩です。挙げていくときりがありませんが、そのうちいくつかを紹介しましょう。
どんな症状で受診される方が多いのでしょう?
神経内科では、発作性疾患(頭痛・めまい・てんかんなど)、運動機能障害、感覚神経の障害、高次機能障害、自律神経障害など、様々な病気を専門的に診ていきます。
症状として意外に多いのは「しびれ」ですね。しびれは頚椎症などの整形外科疾患をはじめ糖尿病性神経障害、アルコール性神経障害、栄養障害性神経障害などで現われることがあり悩まれている患者さんは多いのです。稀に珍しい病気が関係していることもあります。たとえば、次第に筋力が低下して動かなくなる「CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)」の初期症状として、手足にしびれが起こることがあります。
「振るえ」を訴える患者さんも多いですね。緊張した時や寒さで一時的に起こる震えであれば、それは生理現象として起こるものなので心配はいりませんが、生理現象でもその背景に「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)」があったり病的な振るえでは「パーキンソン病」などがあります。
病的な振るえの症状で多いのは、「本態性振戦(ほんたいせいしんせん)」でしょうか。これは、手足や頭部に振るえの症状が見られるものです。日常生活の工夫やお薬で症状が緩和するものから深部電極刺激(脳手術)で軽快されるものまで様々です。症状に悩んでいる人はかなりいると思われますので、振るえで生活に不自由を感じている方は、ぜひ一度神経内科を受診してみてください。
様々な症状から病気を診ていくのですね。
脳梗塞による麻痺やふらつき、ろれつが回らないといった症状から、パーキンソン病により手が振るえる、体が思うように動かない、動作が遅くなるなど、日常生活に不自由をもたらす運動機能障害は神経内科の専門分野と言えます。
中には「不随意運動」といって自分の意思とは関係なく異常運動が現われる疾患もあります。首がまっすぐ正面を向かなくて、意思とは無関係に右に回旋したり左に回旋したり上を向いてしまう「痙性斜頸(けいせいしゃけい)」、全身が勝手にくねくねと動き出してしまう「ハンチントン病」という難病も神経内科では診ていきます。
立ちくらみやめまいが起こる自律神経障害、物忘れ・認知症・アルツハイマー病・意識障害などの高次機能障害、頭痛・めまい・てんかん発作のような発作性疾患などもあります。
こんなに疾患があると、神経内科では診断が大変そうですね。
頭痛という症状をひとつ見ても、頭痛の種類は290種類にも及びます。診断では症状から病気を振り分けると共に、消去法で鑑別診断をしていくといった方法で、どの頭痛に分類されるのかを調べていきます。神経内科や脳神経外科の頭痛専門医の得意とするところです。
また、原因がはっきりしない病気や感覚神経の障害は、眼科や耳鼻科など他科との連携が必要なこともあります。たとえば目を開けていられない、目の周囲がピクピク動くといった症状が現れる「眼瞼痙攣(がんけんけいれん)」では、ドライアイとの鑑別が重要になります。
頭痛の種類ってそんなにたくさんあるのですか?!
暑い日に冷たいものを食べると、頭がキーンと痛くなることありますよね。あの症状にもちゃんと「アイスクリーム頭痛」という病名がついているんですよ。これは生理現象のひとつで心配するような頭痛ではありませんが、中には冷たいものを食べてもぜんぜん頭が痛くならない人もいるようです。
頭痛には、脳出血やくも膜下出血などの脳の疾患が原因で起こる「器質性頭痛」と、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などの「機能性頭痛」がありますが、実はこの他に近年増加傾向にあるのが「薬物乱用頭痛」です。
薬物乱用頭痛って、何だか怖そうな病名ですね
薬物乱用頭痛とは、一般の風邪薬や頭痛薬などの消炎鎮痛剤を連日のように服用することで、元々あった頭痛が悪化してしまう薬剤誘発型の頭痛です。
「薬物乱用」と聞くとちょっと怖い感じがしますよね。英語で「Medication overuse headaches」と呼ぶのですが、これは規定の量を超えて桁外れに薬を飲むと薬物乱用頭痛になるというものではなくて、説明書通りに服用していても、病院で処方されたお薬を飲んでいてもなってしまうものなのです。
薬物乱用頭痛の患者さんのほとんどは、おそらく片頭痛を持っている人だと考えられています。片頭痛は、脳の血管が拡張することで炎症物質が出て頭痛が起こりますが、炎症を抑える頭痛薬を飲み過ぎると炎症を抑えることでさらに脳の血管を拡張させる作用も獲得するようになります。
頭痛があるからお薬を飲んでいるのに、かえって頭痛の症状が悪くしてしまうというのは理不尽な話ですが、薬物乱用頭痛が言われ出したのはここ10年ほどで、知らずに薬を飲み続けている人は大勢いると思われます。
薬物乱用頭痛の診断はどのように行うのでしょうか?
消炎鎮痛物質の場合は月に15日以上飲むことが3か月以上続く場合を薬物乱用頭痛の疑いが強いと考えます。ただ、くも膜下出血や脳腫瘍があるため頭痛が続き、薬を飲み続けているという場合は、薬物乱用頭痛とは言いません。診断の際には、片頭痛以外の器質的なものがないか鑑別していく必要があります。
また、医療機関で処方されるトリプタン系のお薬は、血管を収縮させてなおかつ炎症物質を抑える両方の効果が期待されており、片頭痛の特効薬とも言われて消炎鎮痛物質に比べ服用回数は増えにくい性質をもっておりますが、より少ない服薬回数で薬物乱用頭痛になりやすく、トリプタン系のお薬を服用している場合は、月10日以上の服用で薬物乱用頭痛になることもありますので注意が必要です。
気づかずに飲み続けている人は多そうですね。
薬の副作用として肝臓や腎臓にも影響が出るなど、頭痛だけじゃありませんからね。薬物乱用頭痛の際に見られるアロディニア(異痛症)という症状では、顔や手足がしびれ、全身を激しい痛みが襲うこともあります。あと、めまいや吐き気、音過敏、光過敏といった片頭痛で起こる随伴症状が度々起こることもあります。
アレルギー科や東洋医学(漢方治療)にも積極的に取り組み、患者1人ひとりに合った医療を提供
どんな治療を行うのですか?
当初は、薬を止める、痛くても我慢する、といった治療法でした。場合によっては、入院をしてでもとにかく薬を止めましょうというようなものでしたが、痛くなったらやはりお薬を飲みたくなりますから、その方法ではなかなか治療が続かないんですね。最近では、予防薬を投与して、なおかつ痛みがある時に飲むお薬を最小限処方するという治療法が主流になっています。原因となる薬を止めて元の頻度の頭痛に戻し、もともとあった頭痛に対応していきます。
頭痛学会では治療期間を2か月としていますが、患者さんによってはもっと早く改善できる方もいます。ただ、薬物乱用頭痛は1度治っても再発率が高く、治療後も予防薬を飲んで再発させないことが大切です。
現在、1か月に2回までの頭痛がある方であれば、市販のお薬やトリプタンで対処してもらっても構いませんが、3日以上続く頭痛が月に4回以上ある方は今後、薬物乱用頭痛を引き起こす可能性が高いですので、専門医でお薬を処方してもらい予防薬を飲まれることをおすすめします。
最後に「広島ドクターズ」読者にアドバイスをお願いします。
主婦の方に多いのですが、疲れている時などにまぶたの下がピクピク痙攣(けいれん)することがあると思います。これは「ミオキミア」といって、健康な人でも疲労やストレスがたまった時に神経が過敏になって起こるもので、病気というよりも体が「ちょっと休みませんか?」のサインを送っているものです。
ただ同じ顔の痙攣でも、いつも決まった片側だけが痙攣を起こす場合は、「片側顔面痙攣(へんそくがんめんけいれん)」といって、別の病気が原因で痙攣が起こっていることがあり、そのまま放っておいても治りません。
また頭痛の症状でも、いつもの片頭痛であればそれほど心配することはないのですが、それまでとは違った痛みを感じるような場合は、もしかしたら脳の血管障害などの重篤な病気が隠れているのかもしれません。
病気というのは、日常のちょっとした症状から見つかるものです。過度に心配し過ぎる必要はありませんが、今まで経験したことのないような初発の症状に対しては、微小な症状であっても医療機関を受診してほしいと思います。
医師のプロフィール
井上健先生
●徳島大学医学部医学科卒業
●米国アイオワ大学にて神経内科臨床研究員
●広島大学病院脳神経内科(助手)
●川崎医科大学付属病院神経内科(講師)
●県立広島病院脳神経内科部長
‐資格‐
・日本神経学会専門医
・日本内科学会認定医
・日本臨床神経生理学会認定医
・日本頭痛学会専門医
‐所属学会-
・日本内科学会
・日本神経学会
・日本臨床神経生理学会
・米国臨床神経生理学会
・日本頭痛学会
・日本東洋医学会
・日本てんかん学会
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