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地域社会と行政が一体となって「住まい・医療・介護・予防・生活」を支援する「地域包括ケアシステム」を活用した在宅医療の実現へ【やまぐちホームケアクリニック 院長 山口剛先生】|病気や症状。治療や予防に役立つ 病院・医院・クリニック情報サイト『広島ドクターズ』
(この記事は2013年11月11日時点の情報です)

山口剛 先生(在宅診療・外科)

これからは人を診る医療へ。「在宅診療」という選択

 
やまぐちホームケアクリニック
【住所】広島市安佐北区口田1-21-25
【TEL】 082-843-3030
地域社会と行政が一体となって「住まい・医療・介護・予防・生活」を支援する「地域包括ケアシステム」を活用した在宅医療の実現へ |やまぐちホームケアクリニック|山口剛先生
外科医としてあらゆる病気を診てきた経験を在宅診療に生かし、患者に安心の医療を提供する山口先生
 
「高齢化社会」「医療費削減」などの言葉とともに、「在宅診療」という言葉をよく耳にするようになりました。在宅診療とは読んで字のごとく、在宅で医療が受けられることですが、実際にそれがどのような医療で、どんな対応をしてもらえるのか、また家族に負担はかからないのかなど分からないことが多く、誰もが受けられる身近な医療という認識はまだまだ低いようです。
今回お話を伺ったのは、「患者さんが望む医療を実現したい」という思いから、2013年9月に在宅診療を専門に行う「やまぐちホームケアクリニック」を開院した山口剛院長。外科医として数多くの手術を手掛け、全身管理や末期がんの終末期医療に携わってこられた経験を生かし、現在は365日24時間体制で在宅診療に取り組まれています。熱意をもって地域の患者さんをサポートする山口先生に、在宅診療がどのような医療なのか、また在宅診療を支える「地域包括ケアシステム」とは何かについてお聞かせ頂きました。


「在宅診療」とはどういったものなんでしょうか?

一般的な診療は、病院に医師や看護師がいて、患者さんがそこまで行き治療や検査を受ける外来診療ですよね。ですが患者さんの中には、病院まで足を運ぶのが困難だったり、ご自身は動けても連れて来られるご家族の方が忙しく時間が取れないことがあります。また、慣れない入院生活に不安を感じていたり、緩和ケアを自宅で受けながら家族と一緒に過ごしたいなど、入院治療ではなく家で療養したいといった希望をお持ちの方もいます。
「在宅診療」とは、様々な理由によりご自宅で医療を受けたいと思われる方に、医師が患者さんのご自宅まで出向き、定期的にかつ計画的に診療や治療を行うものです。当院は2013年9月に開院したばかりですが、患者さんが希望する医療の実現に向け、在宅診療に特化したクリニックとして誕生しました。

具体的にどんな医療が受けられるのですか?

「在宅診療」と聞くと、往診かばん1つで患者さんの自宅まで診察に行く「昔の往診」をイメージされるかもしれませんが、在宅診療で受けられる医療は健康管理やお薬の処方だけでなく、検査や治療はもちろんのこと、基本的には病院と変わらないレベルの医療を受けることができます。皆さんが思われている以上に、様々な治療や処置が患者さんの自宅でもできるんですよ。
例えば、食事が一切摂れない絶食状態の患者さんの場合、中心静脈栄養法といって高カロリーの栄養を点滴で補給するのですが、以前は病院でなければ点滴が難しく栄養維持のためだけに長期間入院をせざる得なかった方も、在宅診療を受けることで自宅でも点滴が行えるようになり、自宅療養を選択できるケースが増えました。
また、末期がんや肝硬変では胸やお腹に水が溜まってくると水を抜く処置が必要になるのですが、このような処置も病院でなければできないものではないんです。「お水が溜まっていますね、抜きましょうね」という具合に、カテーテルを用いた処置も患者さんの家で行います。ポータブルエコーの性能も年々良くなっていますから、在宅でも安心して病院レベルの治療が受けられます。

中には在宅診療では難しい治療もあるのでしょうか?

放射線が出る検査項目だけは、医学的な問題ではなく放射線の法律で規制があり、レントゲンの機材を持ち運ぶことが許されていません。ですから、レントゲン検査を伴う治療であったり、病状が急変してどうしてもレントゲン検査が必要になる場合は、病院で行わなければならないこともあります。
ですが、医師の技術と設備さえ揃えば、ある程度の治療もできると言っていいでしょう。寝たきりの患者さんだとよく「床ずれ」ができてしまって、放っておくと細胞組織が壊死して黒くなってしまうため取り除く必要があるのですが、床ずれ治療は僕の得意とするところで、電子メスや麻酔などの手術用具を持って行き在宅で処置を行っています。患者さんやご家族に「病院まで行かなくても手術ができるんですね!」と驚かれますが、慢性病や安定期の療養においては、ほとんどの治療や処置がご自宅でも可能です。5年前10年前だったら入院するしかなかった患者さんも、自宅療養を選択できるケースは多くなりました。

在宅診療を受けられるのは、どんな病気や症状の方が多いですか?

高血圧や糖尿病と言ったいわゆる生活習慣病の方もいらっしゃれば、末期がんで療養生活をされている方、筋委縮性側索硬化症など国が難病と指定する神経内科の病気の方もおられます。比較的お元気だけど骨粗しょう症で骨折しやすい状態の方、パーキンソン病で日常生活動作に支障をきたしている方など、在宅診療を選択される患者さんは、軽症の方から寝たきりの方まで病状は様々です。
実際、在宅診療では内科疾患にとどまらず、外科、婦人科、泌尿器科、整形外科、脳神経外科など、様々な病気を診ていくことになります。自宅まで出向いてから、「私は内科医師だから内科しか診ません。その病気は分かりません」なんて言えませんから、訪問診療に携わる医師というのは、専門性はものすごく高くなくても、幅広い疾患に精通し診断治療できる「総合医」であることが求められます。
僕は開院するまでは、消化器系と呼吸器系の外科が専門でした。主に胃や肺の手術に携わっていましたが、外科というのは手術のテクニックだけ磨けばいいという科ではないんです。手術には内科の知識がベースになるし、ICUに入る方や、術後のあらゆる急変に対応できるように全身管理ができなければ務まりません。そんな外科医の一番の強みは、患者さんの体をオールマイティに診られることなんですね。要するに「医療の便利屋さん」なんですけど、これまで外科医としてたくさんの病気を診てきましたので、その経験を現在の在宅診療に生かしたいという思いは強くあります。

外科医から在宅診療専門の医院開院へ。きっかけは何ですか?

外科医として勤務していた頃は、がんの治療にも関わり、末期がんの患者さんの終末期医療にも多く携わってきました。末期がんの患者さんの中には、最期は自分の家で迎えたいという希望をお持ちの方もいて、「在宅診療で診てくれる先生がいたら教えて欲しい」とよく尋ねられました。ですが当時、僕が勤務していた病院のエリアには、診療時間の合間に往診をされている先生はいても、在宅診療を専門的に行っている先生はいらっしゃらなかったので、患者さんが希望する医療を実現させてあげられなかったのです。
またその一方で、ご自宅での療養を望まれる方は年々増えていると感じていました。医者になり10年が過ぎた頃から、自分が患者さんの希望する医療を提供できないか?と思うようになり、在宅診療を専門に行う医院を開院しようと決めたのです。

山口先生のように在宅診療を専門に行う医院は増えているのでしょうか。

自宅療養を希望する人の増加に伴い、国でも総合医の育成に取り組む動きはあるようですが、まだ具体的には確立できていないようです。総合医として適材なのは外科医なんですが、外科医は手術一辺倒の先生が多く、全身管理ができる技術を在宅部門で生かす方向に意識を変えていくのはなかなか難しいんですね。ただ中には、僕みたいな変わり者もいると思いますので、在宅診療に目を向ける先生が今後増えていけばと期待はしています。
 

在宅診療を専門とする医師不足は今後の課題なんですね。

ただ、在宅診療は医師だけが頑張って実現できるものではありません。看護を行う訪問看護ステーション、在宅ケア、保険サービス、リハビリテーション等の介護や生活をサポートする福祉サービスなどが連帯し、患者さんを支えていくものでなければ、誰もが安心して受けられる在宅診療は実現できません。つまり、様々な専門分野の人たちが関わり、一人の患者さんをみんなでサポートできる環境、ネットワーク作りが非常に重要なんです。
医療や介護の需要増加は目に見えており、国や自治体も高齢者が安心して自宅療養できる環境づくりを目指して、地域社会と行政が一体となり「住まい・医療・介護・予防・生活」を支援する「地域包括ケアシステム」の構築に取り組み始めています。
この「地域包括ケアシステム」と言う言葉は、最近になって耳にするようになりましたが、実は40年以上前から既に行われている地域があり、広島が発祥なんですよ。在宅診療への関心がまだまだ低かった当時、尾道市の御調町にある公立みつぎ総合病院が中枢となって行政と連携を図り、住民参加のもとに地域に包括医療を実践したのが、現在の地域包括ケアシステムのモデルとなっているんです。全国に先駆けて地域包括ケアシステム推進センターを県に設けるなど、広島県は地域包括ケアシステムの推進に積極的ですので、今後「高齢者が安心して在宅診療が受けられる町」として、全国のお手本となれば嬉しいですね。
 

在宅診療は地域の連携が大切なんですね。

そうです。様々な制度やサービスに支えられて在宅診療は成り立ちます。個人プレーで1人が何もかもやるのではなく、患者さんの家には1日にいろんな人がやって来て、それぞれの専門分野で関わり合い患者さんを支えていく、チームプレーで支援するのが在宅診療なんです。
また、「独居老人」「老老介護」の増加が問題視されるように、介護するご家族がいないことも深刻で、ボランティアや見守りといった地域住民の参加も重要な意味を持ちます。夜間パトロールをしたり、新聞配達員が声掛けをするなど、地域ぐるみで療養生活を見守る環境が整えば、在宅診療はより身近な安心して受けられる医療として広がっていくはずです。
在宅診療が一般の外来診療と異なる点はそこなんです。病気だけを診る医療ではないんですね。患者さんとそのご家族の生活を支えてあげられる医療、つまり在宅診療は「人を診る医療」だと僕は考えています。

在宅診療とは「人を診る医療」なんですね。

「人を診る医療」というのは、外来診療も含めた当院のモットーでもあります。特に在宅診療では、現在の病状だけでなく、今までの病気の経緯や飲まれていたお薬など、その方の情報を事細かに知っておく必要があります。それだけではありません。その方の性格、趣味、好きな食べ物、習慣、今生活がどうなのか、普通は病院で医者が聞かないようなことまで把握します。その方の生活を支えていくというのは、まさにそういうことなんですよ。患者さんが生きていくこと全体に関わる医療なのです。
また、地域包括ケアシステムというのは、たくさんの人が関わり合い持ち回りで患者さんをサポートするチームプレーですから、スタッフ間同士の連携も密にしておかねばなりません。そこで当院では在宅診療を始める前に、患者さんやご家族、そして医師、看護師、介護士、リハビリスタッフなど今後お世話をすることになるであろう方々みんなで集まり、ミニカンファレンスを行っています。患者さんやご家族に納得してもらい安心して在宅診療を受けて頂く目的もありますが、僕たち支える側の人間もチームメンバーのお互いを知り、情報を共有することで安心感が得られますので、チームワークを高めるための顔合わせの場として行っています。
 

在宅診療にとって「安心感」は重要ですね。

その方は末期がんの患者さんだったのですが、在宅診療をご希望されているものの、自分の面倒を見る奥様に負担がかかるのではないかということをとても杞憂されていました。また奥様も「家で何かあった時はどうしよう」と心配されていて、在宅診療がスタートした当初は患者さんもご家族の方も不安な気持ちでいっぱいでした。
ですが実際に始まってみると、定期診察でお伺いする度に、皆さんの表情が穏やかになっていくのが手に取るように分かるんです。僕が診させてもらった1か月ほどの間、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、ご自宅で最期を迎えられたのですが、「何かあったら24時間365日、電話1本ですぐに駆けつけて、自分のことを診てくれる先生がいる」という安心感が生まれたことで、気持ちが落ち着いたんですね。
「安心して療養できたからこそ、住み慣れた家で家族と一緒に食事をし、雑談をし、普段の生活の中で充実した時間を過ごすことができました。本当に良かったです。」と、奥様もおっしゃって下さいました。安心感を与えることが患者さんやご家族の負担をいかに軽減させ、気持ちを穏やかやするものなのか、改めて実感した言葉でしたね。

それにしても、24時間365日だと大変じゃないですか?

僕は元々お酒を飲まないので、だからできるのかなと思います。旅行にももちろん行けませんが、覚悟の上での開院でしたから、苦には感じていません。ただ、なかなか学会に参加できないのが残念なので、同じような志を持つ若い先生が育ってくれたら助かりますね。
在宅って特別なように思われるかもしれませんが、外来診療や入院とそれほど大差はないんですよ。うちのクリニックが詰所、患者さんの家が病室、家までの道は(少々長めの)廊下、ナースコールはないけど何かあった時は電話一本ですぐに駆けつけますから、大きな病院にいるのと同じようなものです。少なくとも、僕はそんな感覚で在宅診療に取り組んでいます。
 
地域社会と行政が一体となって「住まい・医療・介護・予防・生活」を支援する「地域包括ケアシステム」を活用した在宅医療の実現へ |やまぐちホームケアクリニック|山口剛先生
在宅診療に特化した医院として2013年9月に開院。24時間体制で自宅療養中の患者を支援している
 

安心して治療に専念できるように心がけていることは?

患者さんに安心感を与えるためには信頼関係を築くことです。そのために必要なことは、しっかり説明をすることだと考えています。在宅診療ではできる限り時間に余裕を持って、また外来診療では患者さんが話しやすい雰囲気を作って、分かりやすく丁寧な説明をするように心がけています。
また、在宅診療で皆さんが心配されるのは医療費のことだと思いますので、「医療保険や介護保険はどうなるの?」「包括医療になるとどれぐらいの負担になる?」「お薬代は?」など、様々な質問に対して医療事務がきちんとお答えして、お金の面でも不安なく医療が受けられるようにしています。
在宅診療をスタートするに当たっては、今後の目標やご家族の希望、週にどれくらい訪問させてもらうかなど、ご家族とも綿密に話し合いをします。特にがんの緩和ケアの場合は、根本的な治療を優先するよりも、患者さんの意向に沿った医療を提供すべきだと僕は考えていますので、「好きなだけ食べたい」「お酒が飲みたい」「タバコを吸いたい」そんな希望を全て話してもらい、その方に最も相応しい治療方針を考え、医療用麻薬によるがん疼痛緩和を行うなど、十分説明を行った上で在宅診療を始めるようにしています。
 

最後に「広島ドクターズ」の読者にアドバイスをお願いします。

厚生労働省が実施したアンケートでも、「最期は家で迎えたい」と希望する方は増えており、在宅診療の需要は今後ますます高まってくると思いますが、まだまだ一般の方に浸透していないのが現状です。「聞いたことはあるけど、実際どうなの?」という方が多いのではないでしょうか?
在宅診療は敷居が高い特別な医療ではなく、外来診療と同じくらい身近な、誰もが受けられる医療であること、そして住み慣れた場所で自分らしく暮らし続けるためには地域のネットワーク作りが欠かせないことを、より多くの方に理解してもらう必要があります。そのためにも、地域住民への健康医療の教育にもっと力を入れていくべきだと僕は考えます。
この近くだと、口田地域包括支援センターが地域と連携を取って、医療・福祉・保健の向上を目指した町づくりに取り組んでいます。在宅診療についての説明会も参加費無料で行っていますので、まずは関心を持つことから始めて、在宅診療のこと、地域一体となって行う支援について知識を高めてもらえたらと思います。


医師のプロフィール

山口剛先生

●久留米大学医学部医学科 卒業
●久留米大学外科学講座へ研修医として入局
●広島大学第2外科(現広島大学消化器・移植外科学教室)へ入局
●中国労災病院、呉市医師会病院、井野口病院、三菱三原病院にて一般外科医として勤務。
●廿日市記念病院では緩和ケア病棟に勤務


‐資格・所属学会‐
・医学博士
・日本外科学会 認定医・専門医

 

 
 

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