(この記事は2015年11月24日時点の情報です)
小池 生夫 先生(眼科)
40歳以上の有病率は17人に1人。治らない病気だからこそ早期に見つけておきたい「緑内障」
こいけ眼科
【住所】広島市安芸区船越南3-27-26
【TEL】 082-847-2772
やわらかな物腰で資料を見せながら分かりやすくご説明くださる小池先生。
緑内障の初期は自覚症状がないため、自分が緑内障である事に気づいていない人は推定で数百万人ともいわれています。
近年は目薬の発達により失明に至る方は減ったものの、未だ日本人の失明原因の1位となっている緑内障とはどんな病気で、どんな治療をするのでしょうか?
今回は九州大学病院をはじめとする福岡県内の主要な病院で眼科診療と緑内障研究に従事され、故郷の広島にて2015年7月「こいけ眼科」を開院された小池生夫先生にお話をうかがいました。
緑内障はどんな病気ですか?
失明原因の第一位で、有病率は40歳以上で17人に1人くらいと考えられている病気です。
女性の方に多く、男女比でいうと2倍近い割合になりますね。
また、かなり稀ですが遺伝性の場合は20代で症状が出る事もあります。
症状としては、視野が欠けたり、視野が狭くなります。いきなり大きく欠けてくる事はないのですが、視野が真ん中から徐々に抜けていきます。
あと、片方の目でなった人は反対の目もなりやすく、その場合たとえば「右がなって、5年後くらいに左がなる」というように時間差で症状が出てくることも多いです。
原因はなんですか?
緑内障は多因子疾患といって、いろんな要素でなる病気だと考えられています。遺伝が結構大きいのですが、あとは近視が強い方、血液の循環が悪い方はなりやすいといわれています。「血圧が上がると眼圧も上がるんですか?」という質問をよく受けるのですが、眼圧は眼内で決まりますから、基本的に血圧と眼圧は関係ありません。
ただ、歳をとると神経が弱って循環が衰えてくるので年齢を重ねると共に増えていきますね。
初期の段階で気付く事はできますか?
人間は両目でものを見ていますから、片方の目にそのような障害が出ていても、もう一方の目でカバーするので気付かれない事が多く、ご本人の気付きに任せていると結構進行している事が多いですね。
普段の生活で片目だけでものを見る事は少ないですから、初期の自覚症状はほとんどありません。逆に言うと自覚症状が出た時はもう初期ではなく、ある程度進んでいる状態なんです。
病気の特性上、目薬で眼圧を下げて進行を遅らせるのが主な治療になるのですが、視野が回復するわけではないので、早期発見が大事です。
緑内障である事に気付いていない方はかなり多そうですね。
推定で数百万人いるんじゃないかと言われています。
早期発見するには人間ドックか眼科での定期健診という形になりますか?
おっしゃる通りで、緑内障は眼底検査をしないと分からないんですよ。眼底検査で神経を見て、その色味と形態で判断します。
眼底検査はオプションの場合もあると思いますが、人間ドックで引っかかられる方は非常に多いですね。
ただ、義務付けられているものではなく任意ですし、受けられる方の多くは働いている方なので、40〜50代で人間ドックを受けられる機会のない方は、年に1回は眼科を受診されたらよいと思います。
最近はOCTという早期発見の器械があるので、それで確認したりして、緑内障である事が分かったら早めに治療しています。
眼科の定期健診はあまり一般的ではないかもしれませんね。
内科などはよく行かれるかもしれませんが、眼科は見えづらいとか飛蚊症とか、何かきっかけがないと行かれないですからね。
ただ、緑内障の初期は気付きにくいので、特に症状がなくとも40〜50代になったら1度は検査を受けられた方がいいと思いますね。そこで問題なければ、その後は、お忙しい方は2〜3年に1回でいいですし。
また、女性に多いといっても男性に緑内障がないわけではなく、眼底検査によって眼底出血や加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)などの病気が見つかる事もあるので、中年以上の方は性別を問わず、年に1回は受けられたらいいと思います。
緑内障の治療はどのように行われますか?
緑内障はだんだん視野が狭くなっていくのですが、うちに限らずどこの診療所さんでもまず目薬で眼圧(目の硬さ)を下げて、進行を緩やかにします。
それでも視野狭窄が進んできたら薬を増やしていきます。
目薬で視野が回復するわけではないので、そういう意味では難しい病気ですが、最近は新薬が続々と開発されて、進行を止めるに近い事はかなりできるようになってきているので、真面目に通院されておられる方が失明に至る事は相当減りましたね。
目薬による治療がメインになるのですね。
白内障の場合は1回手術をすれば治るので非常に分かりやすいのですが、緑内障の場合、たとえば4〜5種類の目薬を試しても眼圧が下がらない方が手術されます。
緑内障の中には進みが早いタイプもあって、その場合は、目薬が4〜5種類くらいになるまでは目薬で治療しますが、それでもだめだったら手術を考えます。広島の場合、手術を行うのは広大病院が多いですね。
ただ、基本的には目薬と同じように眼圧を下げていくだけなので、手術をしても視野が回復するわけではありません。
昔に比べると最近は手術までいく方は本当に少なくなっていて、重症例の方だけになっています。
164号線沿い。安芸保健センター向かい、安芸区役所のすぐ近く。駐車場は裏側にある。
日本人の場合、眼圧が高くなくても緑内障になられる方が多いそうですが。
正常眼圧の緑内障といいますが、日本人の緑内障の半数近くが正常眼圧のタイプだと考えられています。眼圧は10〜21mmHgが正常値という事になっているのですが、これは全世界、全人種をひとくくりにした何十年も前のデータをもとに作られているんです。
日本人に合わせた基準ではないのですね?
日本人の耐えられる眼圧はおそらく正常値とされている値より少し低いのだろうと思われています。
血管の圧のように眼球の圧(眼圧)が高くなると神経をいためて視野が狭くなっていくのですが、正常眼圧が10mmHgからといっても、その値が全世界をターゲットにして作られたという事と、あとは神経の強さや眼圧に耐えられる強さにはとても個人差があると考えられているんです。
たとえば12〜13mmHgという正常眼圧で緑内障になる人もいれば、逆に25〜28mmHgでも緑内障にならない人もいるんですよ。
患者さんに伝わりやすく、とても簡単に測れるので、眼圧検査はもちろん無駄ではないし大事なのですが、神経の丈夫さにとても個人差があるので、眼圧はあまりあてにならないというのが眼科医の認識になっています。
12mmHgで緑内障になる人もいれば、21mmHgという上限値をさらに超えて27〜28mmHgでも視野が正常だったら、様子をみる必要はありますが治療しなくてもいいんです。
ただ、緑内障の場合は、たとえば本来12mmHgの人の眼圧を10mmHgに下げてあげると進行がゆっくりになるのも事実なんですよ。
その人の場合、本当は10mmHgくらいがちょうどいい、という事ですか?
そうですね。ただそれは視野を見ないと分からないんですよ。視野は半年に1回くらい調べるのですが、たとえば12mmHgだった人を初めて視野検査して異常があった場合、目薬で眼圧を下げて9mmHgくらいになってくるとします。
それから病状が進まなければ、「この人は12mmHgはきついけど9mmHgは耐えれるんだね」という事で、それを保っていきます。
ですからその人に合った眼圧の結果が分かるのは1年〜2年後になるんですよ。
結局、視野が一人一人の見え方を決めているので、最初来られた時の眼圧が25mmHgであっても視野が正常であれば治療は要りません。
ただ、25mmHgというのは日本人としては相当高い眼圧なので、1年に1回は視野検査をして経過観察したほうが良いでしょう。
それで何年も変わらなければ「この人は25mmHgでも耐えられるんだな」と分かるのですが、やはり眼圧の高い方の一部は緑内障になっていくんですよ。
ですから同じ25mmHgでも、1年目はよかったけれども2年目には視野の状態が悪くなってきた方の場合、眼圧を下げる治療を始めて、たとえば20mmHgになったとします。それで視野が安定してくれれば「この人は25mmHgは耐えられないけど20mmHgは耐えられるんだね」という事で、それを継続していきます。
緑内障の治療はそんな形で、気の長い治療なんです。
緑内障になった場合、どれくらいのペースで通院しますか?
眼圧を下げる目薬を始めて当面はやっぱり月1回くらい、安定期に入ったら2〜3ヶ月に1回ですね。
お仕事が忙しい方だと2〜3ヶ月に1回にしますし、逆に「心配だから眼圧をこまめに測っておきたい」という方もおられるので、患者さんの環境やお考えにもよりますが、基本は1〜3ヶ月で、あとは眼圧の度合いや視野の度合いによって決めていきます。
毎週通うようなものではないですし、逆に1年に1回というようなものでもなくて、1〜3ヶ月毎に経過をみていくという形ですね。
緑内障になると日常生活に支障をきたしたりするのでしょうか?
見え方というのは人によって求める度合いがライフスタイルによって相当違うので、たとえば90歳のおばあちゃんが中期くらいの見え方になってもあまり気にされないでしょうが、働き盛りの世代でそのような状態になると運転も支障がでるし困られると思いますね。
車の運転はどの程度まで大丈夫なのでしょうか?
初期なら大丈夫だと思います。中期になってくると危険に感じられます。
ただ、運転免許における目の基準は基本的に視力だけで評価するので、片目で視力が0.3ずつあれば交付を受けられますから、緑内障の方でも運転されています。
ただ、見えない所は見えないので、なるべく早い段階から運転はしない方がいいですね、という話はしていますが、そこは法規制の問題になってきますから、危ないながら運転している方がある程度いるのは事実ですね。
進行を遅らせる事ができるようになった緑内障が失明原因の第一位なのはなぜですか?
失明にまで至る方はごく一部ですが、神経が弱まる慢性疾患ですから、怖い病気である事は間違いないんです。
問題は潜在患者さん、つまり自覚症状がない段階で何も困っていないし眼科へ行く気もない方がたくさんいらっしゃる事です。
治らない病気ですから発症する年齢はとても大事です。
30代や40代で中期の症状になってくると仕事にも支障が出ますし、まだまだ長い人生を過ごす事になりますから、特に自覚症状がなくても40代以上であれば一度は眼科を受診していただければと思います。
緑内障の検査はどのように行われますか?
神経をみる眼底検査、一瞬風を送るだけで簡単に測れる眼圧検査のほか、網膜が薄いと緑内障になりやすいので、うちの場合はまずOCTで網膜の厚みをみてリスクの度合いを調べます。そこでリスクがあれば視野検査を行います。視野検査は片目で10分ずつ、20分くらいの検査です。
最後に広島ドクターズ読者にメッセージをお願いします。
世間のイメージは緑内障=失明など、難しい病気だというのはかなり有名なので恐れられてはいますが、今はもう手術に至る事はほぼなく、基本的に目薬の治療です。
段階にもよりますが、片目が中期であってももう片方の目が正常である事もしばしばありますし、その場合は日常生活で困る事なく仕事をされている方もかなりいらっしゃいます。
全員というと語弊がありますが、薬が合えば進行を止めるに近い方は増えているので、そこはあまり恐れず受診していただいて、早く見つけていただいた方がいいと思います。
慢性疾患なので治療を始めると基本的には1ヶ月〜数ヶ月に1回通院して経過観察しながら目薬を続けていただく必要はありますが、それを頑張っていただいたら生涯衰えを気にされずに過ごされる方は増えてきています。
怖い病気ではありますが、受診しないでその間に進行してしまうのはもっと怖いので、早く受診していただいて早く見つけていただきたいと思います。
医師のプロフィール
小池 生夫先生
●広島大学医学部卒業
●九州大学病院眼科
●国立小倉医療センター眼科
●飯塚病院眼科
●福岡県立嘉穂病院眼科(部長)
‐資格・所属学会‐
・日本眼科学会専門医
・日本抗加齢医学会専門医
・光線力学療法認定医
・ボツリヌス治療認定医
・視覚障害者用補装具適合判定医師
・日本医師会認定産業医
・身体障害者福祉法指定医
・日本眼科医会
・日本緑内障学会
・日本小児眼科学会
・日本眼循環学会
・ドライアイ研究会